写真のこと

21.03.03

【ちょっとおしゃべり/小林美香 × 早苗久美子】 写真を見せること、表現すること。vol.3

写真生活手帖編集部

写真生活手帖編集部

小林美香×早苗久美子・ちょっとおしゃべり・写真をみせること、表現すること

写真研究者の小林美香さんと、ギャラリー・ナダール店長の早苗が、人に写真を見てもらうことから始められること、深められることって何だろう、ということについて話しました。

写真を見せるってどういうこと?というところからスタートし、伝えることや写真と言葉のことについて話してきたこのおしゃべりも、最終回。最後にお話ししたのは「表現すること、評価されること」です。

vol.1:写真を見せるってどういうこと?(2/27)
vol.2:写真と言葉のこと(3/1)

日々の営みの延長線上にある表現

小林 「表現」というと大仰に聴こえるかもしれませんが、日々の営みの延長線上にあることなので、生活の中で培われてきた自分なりのものの見方とか感じ方があって生まれてくるわけですよね。コンサルティングでは、1時間から2時間ぐらいかけてお話を伺って、最初から作品に集中していくというよりも、自然な会話の中から制作や作品についての言葉を引き出すようにしています。

 写真家の方を対象とするワークショップで、自分の作品について文章で表現できるように「ステートメントの書き方」を指南するというものがあって、もちろんそれも大事だと思うのですけれど、私は作品からアプローチするというよりも、普段ものを見たり、感じたりしていることの中にその人の伝えたいことの動機や端緒があると思っているので、お話を伺いながら、そこを大事に掬い上げていきたいと思っています。そういう話を伺った上で、作品を見るようにしていますね。

 コンサルティングを受ける方も、ご自身で考えられてきたことを伝えてくださった上で、私に一旦反応を委ねて下さって、そこからお互いに新しい見方ができるということもあります。

早苗 一人だけで作品と向き合っていると、思考が内に閉じてしまって、作品を外に向けて発表していくという感覚が得られなくなることがあるんですよね。そういう時に人に見せたり話したりすると、自分一人で考えている時には具体的に言葉として考えていなかったことが口から出てきたりするんですよ。それってすごく大事ですよね、自分の中に言葉があっても、自分一人では言葉として出せなかったりしますから。自分の無意識の部分に気づくきっかけになるのがパーソナルコンサルティングの意義かもしれませんね。

小林 私自身もカウンセリングを受けた経験が何回かありますが、口を挟まずにただ話を聞いてもらったり、こちらが言ったことを受けて、その内容を確認するように話をしてもらえると、こちらの気持ちも整理されることってありますよね。コンサルティングでもそれに近いことをしているのかもしれません。私が「こうしたらどうですか。」と具体的に指示するというよりも、コンサルティングを受けた方が、前から思っていたことがはっきりしてくるようにお手伝いしている感じです。

 1回20分程度のポートフォリオレビューでレビュアーを務めたことも何度かありますが、短い時間の中で、制作の過程や現状の段階を聞いて、それから今後の課題や方向性を探っていくということをすると、何かしらレビューを受ける方への「指導」になってしまうんですよね。それはそれで意味のあることなんですけれども、短い時間の中でそういったことをして果たして良いのだろうか、と呵責を感じることもあって、時間をかけるコンサルティングでは、そういう方向づけをなるべくしないように心がけています。

早苗 ポートフォリオレビューって、審査とかコンペにも結びついていて、そこで作品の価値を判断されることもありますよね。選ぶ側と選ばれる側の力関係みたいなものも生まれますね。

小林 審査とかコンペを通して作品が評価されて、世の中に公表されるということも大事だと思います。ただ、そういう評価を決めることだけが、作品を見せたり、見たりするということの目的ではないですよね。誰かに評価されないと価値がない、と思い込んでしまうのも危ういことだと思いますし。

 評価する側や権威を否定するわけではないですけれども、評価されることを常に意識していると、一種の苦行のようになってしまうし、それに耐えているのも体に良くないと思います。学校や職場のような環境の中で常に自分に対する評価を気にかけていなければならない、というのも実情だと思います。でも、そういった評価する・される以外の人との関わり方を切り拓いていくことができるのが「表現する」ことの可能性なんじゃないかと思うんです。評価されることを過度に気にかけるのではなく、自分の歩みの幅で続けられる方が結果としていいんじゃないでしょうか。

早苗 パーソナル・コンサルティングから始まって、、写真を見せることで人と人をつなげるギャラリーのあり方、写真と言葉の関係、表現することと評価されるということ、など話が広がっていきましたね。今後も、いろいろな方にコンサルティングを受けてもらえたら、と思っています。


全3回にわたって「ちょっとおしゃべり/小林美香 × 早苗久美子」にお付き合いいただきありがとうございました。

写真研究者・小林美香さんによるパーソナルコンサルティングは、写真専門ギャラリー・ナダールにて随時お申し込みを受け付けています。詳細は、ナダールWEBサイトをご覧ください。
https://g-nadar.net/school/workshop/personal_consulting/


vol.1:写真を見せるってどういうこと?(2/27)
vol.2:写真と言葉のこと(3/1)

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いまの暮らしに、+写真「写真生活手帖」の編集部です。 暮らしをちょっと楽しくする写真生活の提案をしていきます。