さあ、明日から旅の始まり。
という日の夜、私はたいてい途方に暮れている。
これから詰め込むべき荷物の山を前にして。
旅慣れた人というのは、あらかじめご自分の基本パッケージが出来ていて、それこそ無駄のない大きさのスーツケースに必要最小限の荷物を芸術的に素早く詰めて、スマートにお出かけするのだと思う。
一方の私は、前日の夜中まで部屋の中をウロウロしている。
何故か一緒に興奮してウロウロしていた飼い猫が、付き合い疲れて先に寝てしまったりすると、途端に取り残され感が強まり、今度は現実逃避したくなってくる。
現実逃避しに旅に出るというのに。
全てが自分仕様に整っていて、居心地が良くて、愛する猫や家族のいる快適な我が家から離れて、どうして不案内で不便で、もしかしたら不潔かもしれない場所にわざわざ金を払って行かねばならないのだ。そもそもこんなに荷物が決められない私は旅に向いてないんじゃないか。
と、限りなく非生産的な思考に陥り、旅立ち前の大切な睡眠時間を失っていくのだ。
これではいかん。旅も始まっていないのに消耗してどうする。
思い悩んだ果てに、数年前に自分なりの荷物リストというものを作成してみた。その時もやっぱりあれやこれや思いついては消して、作成に確か一週間くらいはかかったと思う。
すると、旅の準備は飛躍的に早くなった。チェックリストを片手に、無駄なく漏れなく荷物を集めては詰め込む。素晴らしい。
数年間は安泰だった。
ところが、数年前のことである。うっかり写真という底なし沼の扉をたたいてしまったのである。
すると、新たな旅の仲間が増えてしまった。重量感があるクセにデリケート。関連グッズが鬼のように存在し、何かとすぐに増殖するヤツら。
ダメだ、このままでは、機内持ち込み荷物が際限なしに重くなってしまう。私がカメラやレンズをなるべく増やさないようにしているのは、貧乏だからではなく(旅貧乏ではある)、体力を温存すべき旅の前夜を、これ以上荷造りに費やしたくないからなのだ。
さて、そんな私ではあるが、妙なことに荷物の詰め込み作業、つまりパッキングは得意なのである。特に便利グッズ的なものを使用せずとも、スーツケースの隙間を余すところなく利用できる。不測のお土産が膨れ上がる帰国の際には特に実力を発揮する。
だから、荷物さえ決まれば、あっという間にパッキングできるのであります。