旅のこと

20.09.06

奇跡の一枚【旅カメラ旅ごはん】

小野﨑 由美子

小野﨑 由美子

旅に出る時は必ずカメラを持っていく。旅の荷物はできるだけ軽くしたいもの。けれどこの荷物だけは我慢して運ぶことにしている。

写真の勉強を始めたのも、旅先の風の匂いや賑やかな町の音、ローカル食堂から立ち昇る湯気を、できるならほんの少しでもプロに近づいて、もっと上手にあの四角いデータに再現したかったからだ。

小野﨑由美子・奇跡の一枚
香港西環地区 トラムの電線。小さく飛行機が写っている。

けれど、自分の写真にはいつもがっかりする。どうにも再現性が低い。構図もそうなら光の加減もそう、なんだかスケール感もないし、撮りたかった気持ちだけが空回りしていたようで気恥ずかしささえ感じる。
プロであれば、どれだけ正確に写し取れるのだろう。巷に溢れる「素晴らしい写真」を見るたび、溜め息をつくのだ。

しかし、そんな私にも、ごく稀に、愛しくてたまらない一枚が生まれることがある。

小野﨑由美子・奇跡の一枚
マヨルカ島(スペイン) ブレていない写真もあるのだが、人の位置、海上の光が一番グッとくる一枚

例えばそれは、ピントが合っていないかもしれない。
光の加減もよろしくないかもしれない。
余計なものが映り込んでいるかもしれない。

それでも、その一枚を、とても気に入ってしまっているのだ。

小野﨑由美子・奇跡の一枚
桜を撮ろうとカメラを構えていたら、二人が歩いてきた。思わずシャッターを切った。

その一枚を取り出すだけで、
満開の桜に降る冷たい雨、
気が遠くなるほど暑かったアンダルシアの昼、
食べ過ぎて胃痙攣を起こした香港の道端、
瞬きするのも惜しかったオーロラが踊る夜も、
例えばそれ自体が写っていなくても、まるで五感が装備された立体映像のように、ありありと蘇ってくる。

それが、思い入れたっぷりに、光を読んで、構図に気をつけて、何なら三脚だって立てて「きちんと」撮った写真ばかりではないことも多く、それはそれでがっかりもするのだが。

けれどこれからも、旅先か、自宅の周辺か、写真の神様がたまに寄こしてくださる奇跡の一枚を信じながらシャッターを切り続けるのだろうと思う。

7+

この記事を書いた人

兼業旅人/猫愛好家/社畜

小野﨑 由美子 Yumiko Onozaki

旅と食と猫を愛するバブル入社の社畜。都内在住。 渡航歴は80回以上、訪れた国は30か国。香港への渡航は20回を超える。 以前はキレイな海や美味しいローカル飯が旅の主目的だったが、最近はグレートネイチャーな旅も。 愛猫しじみは元捨て猫(♂)。夫婦で絶賛溺愛中。 NADAR「女性による女性のための写真教室」で本格的に写真に取り組み始める。 愛猫はもちろん、旅の景色と食べ物、日々の東京を撮っている。

WEBサイト:Blog「次、どこ行く?」

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