写真のこと

25.05.14

― 最近、写真がつまらなくなった人へ

写真生活手帖編集部

写真生活手帖編集部


かつて、写真を撮ることが日常のよろこびだった。
カメラを持って出かければ、見慣れた道も新鮮に感じられたし、
お気に入りのカフェでシャッターを切るときは、少しだけ特別な気持ちになった。

でも最近、ふと気づいた。
「前ほど楽しくないかもしれない」って。

何を撮っても、どこかで“見たことある”ような気がする。
構図も、色合いも、どこか決まりきっていて、新しさを感じられない。
SNSに載せたくて撮っていたはずなのに、
いいねの数ばかり気になって、写真そのものから気持ちが離れていった。

もしかしたら、最初に感じていた“ときめき”を、
「上手に撮らなきゃ」「人に見せるものにしなきゃ」と思い始めたときから、
少しずつ手放してしまっていたのかもしれない。

そして、そんな自分に気づくのが、ちょっとこわかった。
「もう私は、写真を楽しめなくなったのかな」って。

でも大丈夫。
もし今、そんなふうに感じているなら、
それは終わりじゃなくて、次の扉の前に立っているだけかもしれない。


実は、わたしも同じような時期を過ごしたことがある。
写真を撮っても心が動かなくなって、カメラに触れるのもおっくうになって。
そんな自分を「怠けてる」とか「センスが鈍ったのかも」と責めたりもした。

かつては、どんな風景も宝物のように思えていた。
光のかたち、影の表情、小さな日常のひとコマに目を凝らしていた。
でもあるときから、「これは誰かの目に留まるだろうか」「この構図は合ってるかな」
そんなことばかりが気になって、
シャッターを押すたびに、“誰かのため”に撮っているような気がしていた。

気づけば、写真が「自分を表現するもの」から「評価されるもの」にすり替わっていた。
ほんとうは、誰かに認められなくても、撮りたいものって、たくさんあったはずなのに。


その日、特別なことは何もなかった。
朝、子どもたちがまだ眠っている間の静かな時間。
差し込む光が、カーテンの端にふわっとかかっていた。

何気なくカメラに手を伸ばして、
シャッターを切った。
「これを撮ろう」と思ったわけじゃない。
ただ、そこに光があって、自分がいた。
それだけだった。

あとで、その写真を見返しても、やっぱり何の変哲もない。
SNSに載せるような“映える”写真じゃない。
けれど、そこには確かに、
「何かを感じているわたし」が写っていた。

うまく撮れているとか、正しく構図を決めたとか、そういうことではなくて、
ただ、そのときの空気、時間、わたしの気配が残っていた。
それが、とても、いとおしく思えた。


あのとき撮った、ただの光の写真。
見返しているうちに、ふと思った。
「わたし、これまで“何かを撮ろう”としすぎていたのかもしれない」って。

人に見せる写真、人に伝わる写真。
そんなふうに“意味のある写真”を目指していたけれど、
本当は、写真ってもっと自由で、もっと静かな行為だった気がする。

目の前にあるものに、ただ気づく。
何の判断もなく、「きれいだな」「なんだか好きだな」と思う心に従って、
そっとシャッターを切る。

それは、「撮るぞ!」と気合いを入れて向かうんじゃなくて、
むしろ立ち止まったとき、力が抜けたときに、ふっと生まれるもの。

“何かをする”のではなく、
“ただ、今ここにあるものに出会う”──
そんな写真の始まりを、忘れていたんだと思う。


もし今、写真がつまらなく感じているとしたら、
それは感性が鈍ったからでも、飽きてしまったからでもない。
きっとあなたの中で、何かが静かに変わろうとしているだけ。

かつて夢中で撮っていたものに、ときめかなくなったのは、
あなたが今、新しいまなざしを探している証なのかもしれない。
心が次の景色を見たがっているから、いったん止まっているだけ。

立ち止まる時間は、悪いことじゃない。
撮れない日々にも、あなたの目は確かに生きている。
ふと目にとまる光、部屋の隅の影、誰かの横顔――
それに気づく力は、ちゃんとあなたの中に残っている。

無理に撮らなくてもいい。
でも、またいつか「撮りたい」と思ったときには、
どうかその気持ちを、やさしく迎えてあげてほしい。


写真とあなたの関係は、
いつも同じかたちじゃなくていい。
夢中になる日もあれば、離れていたい日もある。
でも、それでもいい。
それが「写真と生きている」ということだから。

写真を“再開”するのではなく、
ただ、また少しずつ“思い出していく”ような感覚。
自分の目で、心で、世界にふれる時間を。

撮れないときも、ちゃんと“写真生活”は続いている。
あなたのペースで、あなたのまなざしで、
また歩き出せますように。


編集部・N

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いまの暮らしに、+写真「写真生活手帖」の編集部です。 暮らしをちょっと楽しくする写真生活の提案をしていきます。