写真のこと

21.10.29

My Hasselblad Story Vol.3/ましかく写真は難しい

早苗 久美子

早苗 久美子

ハッセルブラッドをメインカメラとして使う私が、ハッセルブラッドを手に入れてから“愛機”となっていくまでの約10年の思い出話を語る「My Hasselblad Story」。今回は、ハッセルの正方形フォーマットに戸惑った話。

【これまでの My Hasselblad Story】
 ・Vol.1:ハッセルブラッドとの出会い
 ・Vol.2:ファーストロール

修理から戻ってきたハッセルで撮る

早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3

伯父から譲り受けたHasselblad 500 C/M。ピント位置調整などが必要であることが判明してメンテナンスに出してから2ヶ月ほど経ち、再び私のところに戻ってきた。

まだ“とりあえず撮った”状態の試写しかしていなかったので、まずはこのカメラに慣れようと、機会を見つけては撮っていた。

ハッセルで写真を撮るには、いわゆる「お作法」とも言われる独特の手順がある。

1.フィルムマガジンの引き蓋を抜く。
2.露出を測る。(当時はスマホアプリの露出計を使用)
3.レンズにある絞りとシャッタースピードのリングを合わせる。
4.カメラを構えて構図を決める。
5.ファインダーに内蔵の拡大ルーペを起こしピントを合わせる。
6.拡大ルーペを戻して構図を再度確認。シャッターを切る。
7.巻き上げる(シャッターチャージ)

手順1と2(&3)は必ずしも毎回やるわけではないけれど、1枚撮影するのにあれこれ操作する手数が多い。普段使っていたPENTAX SPやNikon F100で撮る時に比べると、圧倒的に1枚撮るのに時間がかかる。

つまり、ハッセルは1枚1枚ゆっくり向き合って撮るリズムなのだ。そういうリズム感も当時のハッセル人気の理由の一つだったように思うが、当時の私にはいつもと違うこの撮影リズムに戸惑った。正直、まどろっこしい!とすら感じたくらいだった。

早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3
まだ、ハッセルに慣れていない頃。

ましかくの構図が苦手

それでも、カメラの操作にはしばらく撮っているうちに慣れることができた。しかし、どうにも難しかったのが、ハッセルの正方形のフォーマットだった。

当時の私は、ましかく写真に憧れがあった。撮ってみたいと思っていた。それなのに、いざ写真を撮ろうと正方形のファインダーを覗いてみると、どう撮っていいのかピンとこないのだ。

正方形フォーマットでは、いわゆる“日の丸構図”と言われるど真ん中に被写体をもってくるストレートな撮り方が構図的に安定しやすいと言われている。けれど、当時の私は35mm判の長方形で撮る感覚が染み付いており、長方形フォーマットでの“日の丸構図”は、よほど意図がないと逆に難しい構図だった。

だから、正方形で撮る時にも、無意識にど真ん中を避け、メインの被写体を微妙に左右にずらしてしまっていた。

早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3

もちろん主役をど真ん中にするのが正しい撮り方という訳ではないし、今見れば当時の写真も別にNGとかではないと思う。でも、その頃の自分にはどうにも気持ち悪く感じたのだ。フィルム現像後に出来上がった写真を見るたびに、これで良いのかどうか悩んだ。

写真を撮ろうとファインダーを覗いている時も、現像後に写真をみた時も、いつもどこか「しっくりこない」という感覚を拭えなかった。

早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3

ましかく写真は難しい。

そんな苦手意識が、少しずつ少しずつ自分の中に積もっていた。それは徐々に、ハッセルで撮ること自体に自信を持てない感覚になっていき、次第にハッセルを外に持ち出すことが減り、たまに自宅とその周辺を撮るくらいになっていった。

早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3
早苗久美子・My Hasselblad Story vol.3

ハッセルで撮影された作品に感銘を受けることがあっても、ましかく写真を楽しむ人たちの様子を羨ましく思っても、なかなか自分にはフィットしない。

中判を勧められては、「ハッセル持ってるけど、あまり使ってないんです」と答えて、もったいない!と驚かれることばかり。

自分でももったいないとは思っていたけれど、こればかりは仕方がない。そういう訳で、せっかくハッセルを手に入れたのに、ここから数年間は1年に数回という頻度でしか使わなかった。

ファインダーから見える景色は好き

と、今回はハッセルがしっくりこない話ばかりしてしまったのでフォローという訳ではないが、最後にハッセルの好きなところを一つ。

それは、ファインダー。
もっと正確にいうと、ファインダーを通して見る光景。

これは、最初から感動した。そもそもファインダーが大きく見やすいし、独特の奥行き感と透明感を感じる見え方が本当に美しくて、見ているだけで幸せだった。

それを写し留めておきたくてシャッターを切るのに、感覚がフィットしなくて形にならなかったからこそ、余計に自信がなくなっていったのかもしれない。

ハッセルのファインダーを通して見える光景には、今でもときめいている。

一つでも好きなポイントがあったこと。このカメラを使いたいという想いがあったこと。そして、しっくりこなくてもハッセル自体を嫌いにはならなかったこと。それが、私がハッセルを諦めずに済んだ理由だったかもしれない。

(次回へつづく)

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この記事を書いた人

編集長/写真家

早苗 久美子 Sanae Kumiko

写真家、NADAR店長、写真生活手帖編集長。 南青山の写真専門ギャラリー「NADAR(ナダール)」にてギャラリー運営の実務全般を担当するほか、写真教室やワークショップの講師としても活動。写真家としても継続的に作品を制作・発表しているほか、「写真と言葉」をテーマにした活動の一貫として、自身が撮影した写真でポストカード制作し定期的にお手紙をお送りする「お便りプロジェクト」にも取り組んでいる。

WEBサイト:草原の夢

WEBサイト:東京・南青山/写真ギャラリー&写真教室のナダール

instagram:@kumiko.sanae_nadar