写真のこと

20.09.25

それがスタート。【おはようとおやすみのあいまに】

八木 香保里

八木 香保里

外へ出たら必ずと言って良いほど見かけるもの。マスクとともに急速に身近な存在になったもの。私の場合は、買い出しでスーパーへ入るとき出るときにお世話になることが多いです。手をかざすだけでスプレーされるものに出合ったときは、その進化に驚きました。

八木香保里・それがスタート。
2019年11月撮影。FUJIFILM X-T3 & Carl Zeiss Touit 32/1.8

新型コロナの感染拡大が取り沙汰されるなか、需要が急速に拡大していった消毒液ポンプ。現在では「見ない日はない」と言っても過言でないほどの存在となっています。私がここで取り上げずとも、様々な媒体で見聞きされている方は多いと思います。

私がこのポンプを初めて撮影したのは昨年の夏でした。

建物から外へ出たものの、光に包まれるポンプの様子が気にかかり写真を撮りました。撮影した理由はその光景を「きれい」と思ったからです。ただ「きれいやな」と。もちろん当時はコロナの「コ」の字を聞くこともありませんから、「きれい」のほかに特別な想いは何もありませんでした。

八木香保里・それがスタート。
初めてのボトル撮影は2019年8月。PENTACONsix TL & Biometar MC 80/2.8(アイレベル)

この一枚が気に入り、中判フィルムの写真展でも展示してみました。反応はまちまち。面白がってくれる方もいれば、「わざわざ撮る?」と首をかしげる方もいました。その後、年を越し春を迎えようとする頃、新しいウイルスの脅威を目の当たりにするなか消毒液の需要は次第に高まっていきました。

この記事にある写真は全てコロナ禍以前に撮影しています。当時の私はポンプのある風景を特別な想いで眺めていたわけではありません。未だはっきり覚えているのは「光につつまれて綺麗だった」ということだけです。

これらの写真を、撮影した当時に見るのとコロナ禍の状況下で見るのとでは印象が全く異なると思います。例えば、いま、何の情報もなくこれら三枚の写真を見せられたらどのような感情を抱かれるでしょうか。「撮りたくなる気持ち、わかります」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

状況や環境の変化によって、「ありふれている」とされる光景も捉えられ方が変わることがあります。何年も経って振りかえったときに、何でもない景色が特別な存在になっているかもしれません。「これを撮っている人がいたんだ!」という反応もあるでしょう。

八木香保里・それがスタート。
三度目、2020年1月のボトル。Hasselblad 500 C/M & Planar 80/2.8 T*(ウエストレベル)

どんな時もどんな景色も、それを見て気になったら一枚でも撮っておく。気になる理由が曖昧でも、言葉で説明しがたくても、そんなことは気にしない。このポンプの写真、私は今でも好きでよく見返しています。一枚のなかに「こんなところが好き」が沢山あります。見返しながら「迷ったけど撮って良かった」と思います。

何となく撮ったものが意外と「これがわたしの写真です」と差し出せる初めの一歩になることがあります。見えるかたちに残しておきたい。そう感じたら、それがスタート。

フィルム現像&データ作成(画像 二・三枚目)

フォトカノン戸越銀座店 https://photokanon.com/

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この記事を書いた人

写真家

八木 香保里 Yagi Kahori

生活の場に出合う身近な景色や人物、動植物などに被写体を絞るスタイルで撮影しています。 主に自身の生活圏内で撮影することから、実際に暮らす街や実家のある京都市内を写した作品も多く制作しています。 写真の見えるかたちを考える「四月と三月」(2016年より近一志氏と共作)、横浜御苗場2019 レビュアー賞(ジム・キャスパー 選)、KPAキョウトフォトアワード・アワード部門 優秀賞(鈴木崇 選)など。

WEBサイト:Yagi Kahori Photography

WEBサイト:lensculture

instagram:@yagi_kahori