海外でクリスマスを迎える、と聞くと、商業的クリスマスに慣れた国民はついワクワクしてしまうのだが、キリスト教の国で非キリスト教徒かつ知り合いもいない一介の旅人がその日を過ごすとなると結構大変である。
何しろすべてが閉まってしまう。
レストランも、スーパーマーケットも、観光スポットも何もかも。昔の日本の正月がそうであったように、開いているといったら教会ぐらい。そこだって、よっぽど観光地化されているのでもなければ、なんとなく居ずらいものである。
数年前のクリスマス、私たちはレイキャビクにいた。
観光立国アイスランドをもってしても、クリスマス当日にはコンビニすら開いていない。わずかに中心地のカフェが開いていたが、それも時短営業。
現地ツアーのガイド氏に聞いたところ、アイスランドのクリスマスは、12月24日の午後4時きっかりから始まるのだそうだ。それは午後4時きっかりに家にいなければならないということ。仕事を終えるのが4時ではないのである。
私たちは対策を立てた。
キッチン付きのアパートメントを借りて、24日の午後4時より前に食料を買っておく。イブと当日は部屋でのんびり料理などして、それこそ風呂あがりのだらっとした状態で飲み食いする。オーロラツアーやゴールデンサークルツアーのお休みは24日の午後4時以降と25日だけだったから、一日くらいは静かなレイキャビクの町中を楽しむのも良いかと考えたのだ。
私たちがそのアパートメントタイプのホテルに決めたのは、立地、部屋数が少なくて静かなこと、キッチン付きであることなど、ハード面でとても好ましい条件であったことともう一つ、重大かつ素晴らしい条件を備えていたからである。
それは、朝食である。
建物内にカフェやレストランはない。だが、朝食付きの宿泊プランを選ぶと、毎夕、部屋の冷蔵庫に翌日の朝ごはんバスケットを入れておいてくれるのだ。この朝ごはんバスケットが素晴らしいと、某口コミサイトで評判だった。
実際泊まってみてそれは本当だった。
何しろ量が多いので、残ったパンでサンドイッチを作ってランチにしたり、部屋での夜ごはんにしたり、随分活用させてもらった。最初は追加料金がちょっと高いなあ、なんて思ったが、物価の高い北欧の外食には比べられない。ものすごく価値のあるバスケットだったのである。
バスケットの内容は次のとおり。
食パン2枚セットが2種類、アイスランド産チーズ数種、バター(アイスランド産のバターはめちゃうまです)、チーズ数種、チーズスプレッド数種、ジャム数種、ヨーグルトかスキール(アイスランド産のヨーグルト)、小さいトマト(たまにキュウリも。野菜は貴重)、フルーツ(リンゴや洋ナシなど)、アイスランディックハーブティー、インスタントコーヒー、そしてゆでたまご。内容は日によって少々変わるが、これに、牛乳とオレンジジュースが1パックずつ、なくなれば補充してくれる。
さらに、毎朝7時には、近くのパン屋さんから焼き立てのパンが届く。ハード系のお食事パンが丸々1本、日本の気取った店で700円とか1000円とかで売っているサイズである。
バスケットには、ゆでたまごが必ず2つ入っていた。
少し小さめのハードボイルドエッグには、毎日毎日、ニコちゃんマークが描かれていた。
お客さん商売は毎日本当にやることがいっぱいで忙しいのだし、少しでも手間を省きたいはずだと思う。
でも、毎日描いてある。結構丁寧に。
油性ペンで描いてるみたいだから、染みちゃいそうだね。なんて言いながら毎日楽しみにし、クリスマスを迎えた。
いつに増して、丁寧に殻を剥いて食べた。
味は変わらない。でも美味しい。
白身には、赤と緑のインクがちょっぴり染みていた。