散歩好き
シカノ ミエ MIE SHIKANO
東京の下町在住。 ひまがあれば美味しいものを求め、下町をウロウロしながら、 古い扉の奥に広がっている世界に思いを馳せ、新しいお店の可能性にときめき、 頭上の街灯を写真に収め、塀の上と車の下の猫とにらめっこしている。痩せる暇がない。
instagram:@m_n_deerfield
暮らしのこと
20.10.10
♪知らない街を歩いてみたい~
どこか遠くへ行きたい~ (「遠くへ行きたい」歌詞:永六輔)
ああ、さびしい。とてつもなく物悲しい気分になる曲だ。旅の歌なら、もっとうきうきした曲調になるもんじゃないだろうか。
日曜の朝、ときたま早起きしたときにこの曲を耳にするたびにそう思っていた。
しかし、今。この2020年秋の行楽シーズン真っ只中というのに、何の旅行の予定もない今は、このしんみりした歌がなんともしっくりくる。むしろ積極的に口ずさんでしまうくらいだ。そうか、この歌は旅へ行きたいけど、行けない歌だったのだ。憧れが歌われていたのだ。(そうでなきゃ、”愛する人と巡り合いたい”なんて歌詞が出てくるわけがない。ロマンチストめ)ええい、歌ってやる!
そう。旅に出たくても、そうは問屋がおろさない。飛行機も行きたい国におろしてくれない、こんな世の中。
せめて、自由に楽しく旅に出ることができるその日に備えて、イメージトレーニングを重ねておきましょう。そうだそうだそうしましょう。パスポートをしまいこんだままの今年は、まずは国内から。
そこでわたしがおすすめするのは、宮田珠己『ニッポン47都道府県 正直観光案内』。
読んでいてくすくすニヤニヤ、読んだ後に体とフッと気持ちが軽くなる、マッサージのような旅行エッセイの書き手、宮田珠己による日本全国のおすすめスポット紹介本。
といっても、普通のガイドブックに載っているようないわゆる有名観光スポットが出てくるのはまれで、紹介されているのは主に、地元民さえも行ったことのないような、観光地としては無名な、けれど不思議な魅力がある場所。
たとえば、わたしが生まれ育った埼玉で見るべき場所はどこなのか。
わたしが無理やり絞り出すと、「埼玉スタジアム2002」「レッドボルテージ」「居酒屋力」…それは浦和レッズに寄りすぎ。まじめに答えると、「長瀞」「吉見百穴」「本田エアポート」ってところだろうか。確かに、埼玉は観光名所少ないけど、ほぼ東京だから仕方ない。
しかし、この本で勧められている埼玉のスポットは…。
地図の上に示されたキーワードは「国宝」「地下神殿」「+1観音など」の3か所。何のことやらどこのことやら、本文を読まないことにはまるっきり予想もつかない。そして、わたしの予想は見事にはずれて、読んでも知らない場所だった。ただ、面白そうなスポットだったので、機会があったら、本当に機会があったら行ってみたいと思わなくもない。
そんな感じで実際に次の旅の参考になるかはともかく、自分に縁のある場所への興味がわく本であることは間違いない。
もうちょっと具体的な旅行記がいいという場合のお勧めは、同じ著者による「だいたい四国八十八ヶ所」。
八十八ヶ所というのはもちろん巡礼なわけだけど、信仰心なしで、ただ四国を一周歩いてみたいから行く、という出発。行きたきゃ行っちゃえ、そうでなきゃ面倒くさくなるという旅には大いに賛成。
旅に出るには、高尚な理念も、青臭い自己との対話も、三分の一の純情な感情も必要なし。楽しんで、時に苦しめば(足のマメとかに)いいのだ。
緩いスタートながら、広い四国を数度に分けて一周する歩き旅は、きつい山あり、風にさらされる海沿いあり、車のビュンビュン通る国道沿いありで、かなりきつそうだ。
その中で、同じように歩くお遍路さんに共感したり、お接待をありがたがったり、面倒くさがったり、面白い札所にテンションが上がったり、きれいな川や海で遊んだり、足のマメと戦ったりと旅を楽しんでいる様子は、充実そのもの。いつの間にか一緒に旅をしている気分になり、ゴールしたときには、わたしはもう八十八ヶ所巡りは十分、という気分になった。
本の帯に「非本格派歩きへんろの旅」とあるように、読む方も何の気負いも下調べも心の準備も不要、好きなお茶とお菓子でも用意して本を広げよう。あ、お菓子はポテトチップ以外でね、本が汚れちゃうからね。
散歩好き
東京の下町在住。 ひまがあれば美味しいものを求め、下町をウロウロしながら、 古い扉の奥に広がっている世界に思いを馳せ、新しいお店の可能性にときめき、 頭上の街灯を写真に収め、塀の上と車の下の猫とにらめっこしている。痩せる暇がない。
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