世界は再び閉塞感に覆われた。体は居住地に縛られ、ココロは自由なはずだが、やはりその事から離れられない。
とは言え、イブクロは気ままである。
何があろうとお腹は空く。どこに縛り付けられていようと、どこを旅していようと、お構いなしである。腹がへるものはへるのである。
そんな私のイブクロが今一番焦がれているのは、あの小さくてうるさくてパワフルでノスタルジックで美味しい街、香港である。
100万ドルの夜景きらめくレストランから、カレーの香り漂う謎のスナックを売るスタンドまで、あらゆるレベル感の食がひしめき合う食のワンダーランド。
そして、殊のほか恋しいのが、100万ドルではなく謎スタンドに近い方の、その場所にしかない食べ物屋さん達である。
いつでも行けると思っていたら、なかなか行けなくなってしまったので、せめて妄想してみる。
怒号かと思うほどのボリュームで広東語が飛び交う下町の飲茶専門店。ほっかほかの蒸籠は早いもの勝ちだ。
どこまでが道路でどこまでが店なのか判然としない麺屋。焼売か!というサイズのワンタンに、輪ゴムのような食感の麺(誉めている)は、オーダーすると秒で出てくる。
早朝から深夜までおっちゃんが大釜でかき混ぜているお粥は、ふわトロクリーミー。
ふるふるのコクうま牛乳プリンやチープなマンゴプリン。茶餐廳で出てくる野菜ほぼゼロの豚バーガーに出前一丁の怪しい麺料理。働く市場人を支える激甘高カロリーフレンチトースト、名前だけを聞くとゲッと思ってしまうパンストミルクティー。
妄想は止まらない。
この調子で書いていくと原稿が何ページにもなってしまう。
何しろ、魂の旅友と20回も積み重ねた香港への旅である。故郷でもないのに毎年1回、時に2回は行き、私にとっては渋谷などより自信をもって歩ける街となった。
恋しい。
ああ、恋しい。
100万ドルの夜景を従え、小さな体で波を越えていくスターフェリーに乗って、大人げなくパンパンにしてしまったイブクロをさすりながら、「明日は何食べようか」なんて言いたい。
あの元気でがさつで、優しい香港であるうちに、早く会いに行きたい。