散歩好き
シカノ ミエ MIE SHIKANO
東京の下町在住。 ひまがあれば美味しいものを求め、下町をウロウロしながら、 古い扉の奥に広がっている世界に思いを馳せ、新しいお店の可能性にときめき、 頭上の街灯を写真に収め、塀の上と車の下の猫とにらめっこしている。痩せる暇がない。
instagram:@m_n_deerfield
食べること
20.08.27
根津・千駄木を歩きます。
谷根千とまとめて称されることが多い場所ですが、谷中は寺町でありながら、商店街もあって観光客も多く賑やかなのに対して、根津と千駄木は大通りを一歩入れば静かな住宅街。ちょっと雰囲気が違います。
まず根津神社に向かいましょう。歴史の重みを感じると同時に、明るい雰囲気も持ち合わせた場所です。重厚な本殿は、それもそのはず国の重要文化財。ちなみに目に入る建築物のほとんどがそうです。わたしは単純なので、重文だと知るとありがたさがアップしてしまうのですが、皆様におかれましてはいかがでしょう。やっぱり違うよねえ、なんてわかったような顔で隅々まで眺めまわしたくなったりしませんか。
いつもはお参りするのに列もできますが、今は普段より人が少ないので存分にお参りできます。今なら神様へのお願いごとも届きやすそうな気がします。
京都の専売特許かと思っていた、いくつもの朱色の鳥居が並ぶ、圧巻の千本鳥居。これも根津神社の境内にあります。鳥居をくぐり抜けた先にあるのはその名もかわいらしい乙女稲荷神社。鳥居の一つ一つに奉納した方たちそれぞれの思いが込められていると思うと、神妙な気持ちになります。写真映えがどうの、とか言う場所じゃないんだと、それは本当に思います。
(写真を載せるときには、奉納者の名前が写らないようにしましょう。)
さて、根津はこのところ蕎麦の激戦区となっています。地下鉄千代田線根津駅を中心とした半径100メートルの中でさえ、美味しいからぜひ行って欲しいというお店が4軒はあります。リアルな数字です。
わたしは以前は、蕎麦といえば年越し、というくらいの頻度でしか食べなかったのですが、日本酒を飲むようになってから、蕎麦屋に行くことが各段に増えました。お蕎麦の前のちょっと一杯をつまみとともに、という楽しみを知ってしまいまして。蕎麦の美味しいお店は、おつまみも凝ったものを出してもらえるのが嬉しいですね。
この辺りを歩いていると坂が多いことに気づきます。気づかなくても、そのうち足の重さが教えてくれるのでご安心ください。それから文豪の生活した跡の多さ。それにまつわる案内板もたくさん目にします。文豪、転居しすぎです。
根津神社に接しているS坂、おばけ階段、解剖坂、たぬき坂、きつね坂…名前もユニークで、面白いのですが、坂を上がるのは都会の山登りと言っても過言ではない。正直疲れます。
歩き疲れたらお茶でも飲んで一休みしましょうか。D坂こと団子坂をのぼっていると目につく、コンクリートのやけにモダンな建物は、森鴎外記念館。その中の喫茶室”モリキネカフェ”が落ち着けていいのです。
大きなガラス窓越しに、いわゆる三人冗語の石(石に座る 鷗外,幸田露伴,斎藤緑雨が写っている写真が残っている)を眺めることができます。文豪たちがこの辺りを闊歩した時代に思いを馳せながら、一人で静かな時間を過ごすのにおすすめです。
ところで、この鴎外記念館。昔は観潮亭という鴎外の旧居だった場所です。名前の通り、昔はここから海が見えたそうですが、確かに高台ではありますが、今は目の前の学校とその向こうのなんてことない街並みしか見えません。
ここで、疑問が。下町とは、下にある町なんじゃないの?ここは果たして下町なの?
そこで手元の書物(食べ物ガイド)で調べたところ、もともと東京の下町とは「武家屋敷の並ぶ西南の台地の山の手」に対して、「町人の町としての東南の台地」。江戸時代には神田・日本橋・京橋辺りだったのが、明治くらいには下谷・浅草も含まれるようになり、更に最近では本所・深川・荒川・足立・葛飾なども含まれるようになった、らしい。
軽くショック。いわゆる谷根千(台東区・文京区)はまごうことなく下町だと思っていたけれど、本来の区分からいうと実はグレーゾーンのよう。
とりあえず、このコーナーにおける下町は、東京の東側で、昭和の面影の残る、人情味のある、散歩の楽しい町で美味しいものが食べられるところ、というザクっとした定義にします。
散歩に戻りましょう。
甘いものも食べたいけど、お酒もちょっと飲みたい。そんな時に立ち寄りたい、和菓子と日本酒を合わせる、ちょっと変わったお店があります。
季節のフルーツ、野菜、スパイス。素材を聞くと和菓子という範疇に収まるのか不思議に思いますが、きっちりと完成されて美しく美味しい。そのうえ、そのお菓子に合ったお酒を出してくれるのです。もちろん、お茶と合わせるのもありです。
コーヒーの風味をつけたゴボウの和菓子だ、なんて聞いたら、口に入れる前からわくわくすると思いませんか。それぞれのお菓子にこめた店主のこだわりを聞くのも楽しいお店です。
いやいや、まだお腹に余裕がある、という方には、食べ歩きがあります。場所によっては行儀悪いと思われる食べ歩きに文句を言われることがないのが下町。食べたいものに出会ったら食べなきゃ負け。一期一会です。
根津といえば、その名も”根津のたいやきが”有名です。皮は鱗の凹凸しっかり系の薄めのパリパリ系。上品な甘さのあんこもしっぽまでしっかり入っています。
ちなみにたいやき、大きな鉄板で一気に焼くのは養殖もの、一つずつの型で焼くのは天然もの、と言われているそうですが、こちらは正真正銘の天然もの。ご主人が一つずつひっくり返して焼いている様子は並んでいるときに見えます。ありがたい。
難点は、売り切れ御礼の早じまいで食べられないときがあること。食べたいときには、お早めに!
もう一つ和菓子をご紹介しましょう。夏目漱石が「吾輩は猫である」を執筆してた住居跡にほど近い老舗の和菓子屋さん”一炉庵”。漱石はここの和菓子を愛していたそう。店内には漱石の書がかかっています。
ちなみに、鴎外の旧居にも近いので、鴎外も食べていたに違いないと思うのですが、潔癖症で、果物も全部熱を通したという鴎外。饅頭はごはんの上に4つに割って乗せてお湯をかけて食べる饅頭茶漬けが好物だったというので、和菓子屋さんにとっては嬉しいお客さんではなかったかもしれないですね。
こちらではどら焼きを買いました。お土産のつもりが、ついついその場でペロリ。黒糖・和三盆・抹茶と三種類あるので食べ比べても楽しそうです。あんこも皮もしっとり、食べやすい大きさです。
漱石の旧居跡には記念碑があり、塀の上を見ると”吾輩”がいるのに気づきます。一説には一炉庵の猫がモデルだとも言われているそうです。和菓子も一口くらいもらってたかもしれないですね。
以上、食べすぎ注意の根津・千駄木でした。
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東京の下町在住。 ひまがあれば美味しいものを求め、下町をウロウロしながら、 古い扉の奥に広がっている世界に思いを馳せ、新しいお店の可能性にときめき、 頭上の街灯を写真に収め、塀の上と車の下の猫とにらめっこしている。痩せる暇がない。
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