食べること

21.06.07

やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる 【Yummyな下町散歩】

シカノ ミエ

シカノ ミエ

シカノミエ・やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる【Yummyな下町散歩】

神保町は大人のテーマパーク

何かに特化した街を歩くのって、楽しいですよね。

スポーツ用品の街、神田。楽器の街、御茶ノ水。電気の街、秋葉原。同じような店が並んでいる中でそれぞれの個性を見つける楽しみは、こだわりを持つ大人のものではないでしょうか。

今回ご紹介する散歩地は、古本の街・神保町。大きな道路沿いに古書店が並んでいる、本好きにはたまらない場所です。

古書のうずたかく積まれた狭小な店内は意外にスペクタクル。目的があってもなくても、ただの時間つぶしでも、店内に足を踏み込めば、予想外の世界への出会いと、豊かで楽しい時間をもたらしてくれること間違いなし。さらに最近この界隈は、文房具屋さんも充実。行列のできる飲食店も多く美味しいものにも事欠かない、散歩にはうってつけの場所なのです。

あ、ところで、このコラムのタイトルには下町とついていますが、神保町が下町かどうかというのは、言いっこなしです。最近の東京の下町というのは、もはや概念、ファンタジーなので、言ったもの勝ちという傾向にあります。

本の重さに床が傾きそうな古書店に満ちている、昔の図書館のかび臭い匂い。その匂いに懐かしさを感じた時点で、そこはもうまごうことなく下町です。

シカノミエ・やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる【Yummyな下町散歩】

一つの店・一冊の本が広げる世界

神保町を歩いていて気づくのは、本屋が通りの片側に集中しているということ。訪れた人が本屋巡りがしやすいように、かと思ったら、西日が当たって本が日焼けしないよう北向きになっているんだとか。

さて、前を通りすがるだけで本屋さんにはそれぞれの専門分野があることが歴然です。映画、アイドル、歴史、外国文学…。懐かしい歌手が表紙の雑誌を見て、引き寄せられるように店へ。

“MYOJO”が“明星”だった頃のもの、しかも歌本付きなんていうのを見つけたら「懐かしい~」と声を出さずにはいられません。ワクワクしながらページをめくった時代を思い出しつつ、棚をなめまわすように眺め、ワゴンをひっくり返すことになります。

ショーウィンドウ―に並ぶ、年季の入った本の背表紙を見て気になったのはこちら。ずらりと並ぶその名も「御仕置例類集」。御仕置!? どんな?? こんなに種類が!?

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> 南海堂書店

残念ながらこの本屋さんはこの時休業中だったため、ネットで調べてみたところ、御仕置例類集とは、江戸幕府が作った刑事事件の判例集だそうで、今でいうところの最高裁の判例集にあたるよう。そうですよね、御仕置の種類がこんなにあるわけないですよね。市中引き回しの上打首…とか書いてあるんでしょうか。機会があったらページをめくってみたい本です。

ところで、市中引き回しといえば、この古書店街から目と鼻の先の明治大学内には「明治大学博物館」があり、その中の刑事部門には、日本と諸外国で拷問や処刑に使用された道具の展示があります。実際にどんな道具で市中引き回しがされたのか、アイアンメイデン(ヘビメタのバンド名の由来となった拷問器具)とはどんなものなのかを見ることができます。人間の残酷さが迫ってくる展示です。御仕置、もとい、法と人権に興味のある方は是非。無料です。

ちなみにわたしは大学の方に『「拷問博物館」はどこですか?』と聞いてしまったことが!ちゃんと教えてもらえましたけどね。

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> 明治大学博物館(ただ今、休館中です)

どこのカレーを食べるか問題

ちょっと脇道に入ると、すぐにカレーの匂いにそそられるのが神保町です。歴史があるお店がある一方、新しいお店も増えていて神保町界隈には70店舗くらい専門店があるそう。

スプーン一本で食べられるところがうけたのではないかと推測します。買った本を読みながら片手で食べる、ということも可能ですからね。サンドイッチ伯爵がカードゲームをやりたいがために、片手で食べられるサンドイッチを発明したのと同じで。そばやうどんだとそうはいかない。

で、カレーです。この日の気分は洋風カレー。というわけで、老舗人気店のボンディへ。

お店で食べるカレーには、家のカレーとは違う美味しさがあります。美味しさに層があるというのかな。一口目に感じる甘さから、舌にずっと残る辛さまで、それぞれに深みがあるように感じます。

ボンディのカレーもまさしく家では味わえない美味しさ。このお店の変わった点は、ふかしたジャガイモが、別のお皿にバターと一緒に出てくること。このジャガイモを、そのままじゃがバターで味わうか、カレーをまとわせて食べるか。ジャガイモ好きなわたしにはカレー以外にも楽しみがあって嬉しい。

シカノミエ・やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる【Yummyな下町散歩】
シカノミエ・やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる【Yummyな下町散歩】

ちなみに、お昼時には行列の絶えないこのお店。急いでいるときには、本店ではなく神田小川町店に行くのがお勧めです。少しだけ早く入れる…気がします。

> ボンディ

街をおさんぽして、センスの良い筆記用具に出会う

街歩きには、その街の地図があると心強い。神保町でも入手できました。

書店や飲食店の店頭にある「ふらっとおさんぽ神保町」はTake Freeの小冊子。お店の紹介だけでなく神保町にちなんだ連載記事は読み応えもあって、さすがは本の町神保町。巻末の神保町地図を見ると、本屋と飲食店の多さに驚きます。

> おさんぽ神保町web

わたしの好物の手描き地図は、”ほぼ日刊イトイ新聞”の運営するリアル店舗”TOBICHI”で。店内には、ひとひねりあるグッズが並んでいて、楽しいお店です。おさんぽマップは、この1枚に”ほぼ日”の世界観がぎっしり詰まっていて、書かれているすべての場所を実際に歩き回りたくなります。

> TOBICHI

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地図を見ながら歩いているうちに、真新しいビルにたどり着きました。知らないうちにこんな高層ビルが、と思わず見上げます。

再開発というと、古い建物を残して欲しいという淋しさと、新しいものに出会う期待の両方がわき起こるのですが、ここについては、こんな素敵なお店ができてたなんて、という喜びの勝ち。

自分の生活に今まで無関係だったおしゃれな雑貨と文房具が並んでいて、店内を一通り見ただけで自分までおしゃれになった気になります。万年筆のインクにしてもいろいろなメーカーのボトルがずらりと並んでいて、ラベルを見ているだけでもときめくのに十分。海外のものって、ボトルも大きいんですね。どの色がいいかなと、しばし悩む。万年筆持ってないのに。

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> アンジェ ラヴィサント

老舗のお店を覗くのも欠かせません。明治創業の文房堂。画材が中心のお店ですが、文房具やカード、個性的な雑貨も豊富。

たとえば、小さなスケッチブックと色鉛筆は、旅先で印象的な風景に出会ったときに、その場でさささっとスケッチするのにちょうどよさそう。眺めていると、絵にしたい風景が思い出され、脳内にアメリカの広大な風景をスケッチしている自分の姿が浮かんできます。ものすごいきれいな絵が描けるに決まっています。絵を志すようになった日には必ずや手に入れようと心に決めました。

そんな妄想すら許されないような、高級なパステルもショーケースに並んでいます。木箱に入った微妙な色のグラデーションの美しいパステルは、予想した値段とは桁が違ってました。もはや美術品です。しっかり目の保養をさせていただいてその場を後にします。

文房堂は、レトロな雰囲気をまとった建物も存在感を放っています。のっぺりした建物の表に、それぞれのお店が思い思いの意匠を付けた看板建築と言われるもので、神保町の名物のひとつです。

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> 文房堂

***** 2021.6.11 追記 *****

看板建築です。と断定して書いてしまいましたが、文房堂さんから直々に「これは違います」と教えていただきました。
大変失礼しました。知識不足でお恥ずかしい限りです。看板建築は、関東大震災後にて建てられた洋風の外観を持った建物とされていますが、現在の文房堂さんの建物は関東大震災の前年に造られた外壁を残しているとのこと。

文房堂の歴史 http://www.bumpodo.co.jp/company/history.html

こちらのページには、関東大震災後の神保町の写真も載っています。周りの建物が倒壊してしまった中で、文房堂さんの社屋は鉄筋造りのために倒壊を逃れていて、このページを見てから行くと、今も残る文房堂さんの建物のありがたさと、今の神保町の街並みとのギャップが心に沁みると思います。

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カフェにも困らない、いや困る(ありすぎて)

裏道をさまようと、入ってみたくなるカフェがたくさんあるのが神保町のいいところ。

「さぼうる」「ミロンガ」「伯剌西爾」といったレトロな雰囲気のある老舗カフェもいいし、パンケーキが人気な「タムタム」やプリンが有名な「ディゾン」も捨てがたい。

シカノミエ・やっぱり本が好き。神保町で読む・買う・食べる【Yummyな下町散歩】

しかし、今回は、文房堂に戻ります。先ほど見上げた、個性的な形の窓。中はどうなっているのかな…というと、嬉しいことにカフェ。外を行き交う人を眺めながら、一休みするのに本当にお勧めです。

日によっては、近くの人気ケーキ屋さん「STYLE’S CAKES」のケーキも食べられるみたいで、次回はそれも楽しみにして神保町を歩きたいと思います。

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> 文房堂のTwitter

悲しいことに本屋さんは今ものすごいスピードで姿を消していっています。アメリカの閉店予定の本屋さんのドアに「トイレはアマゾンで借りれば」という貼り紙があったという話もあるくらいで、ネット通販のあおりを受けている本屋さんが多いことは想像に難くありません。

わたしももちろんネット通販の恩恵に預かっているわけですが、都合のいいことを言えば、どうかうまく共存ができますように。神保町の古書店街がそのまま続きますように。

わたしはやっぱり紙の本が好きです。

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この記事を書いた人

散歩好き

シカノ ミエ MIE SHIKANO

東京の下町在住。 ひまがあれば美味しいものを求め、下町をウロウロしながら、 古い扉の奥に広がっている世界に思いを馳せ、新しいお店の可能性にときめき、 頭上の街灯を写真に収め、塀の上と車の下の猫とにらめっこしている。痩せる暇がない。

instagram:@m_n_deerfield