おこもり時間に読みたいオススメの本、というテーマをいただいて、人に推薦したい自分が読んだ本をしばし考えてみたのだが、どうもこれ、という1冊が見つからない。一冊だけ、旅小説の金字塔とも言える沢木耕太郎氏の「深夜特急」が思い浮かんだが、これって旅をテーマにコラムを書いている誰かとかぶりそうだなあ、と却下。そういうわけで、漫画でもよいか聞いてみたところ、大歓迎とのことで、私の大好きな漫画について書くことにする。(ちなみに我が家の本棚は漫画だらけである。大人の趣味は歯止めがきかない)
信濃川日出雄『山と食欲と私』
前置きが長くなったが、私が自信を持って推薦するのが信濃川日出雄氏の「山と食欲と私」。
なんかどこかで聞いたことのある曲のタイトルに似ているが、タイトル通り、主人公の日比野鮎美ちゃんが山に登りつつ、食欲のおもむくまま山ごはんを作って食べるという内容だ。1話目は山ごはんの鉄板、おにぎり。2話目は私の連載コラム「室長の外ごはん白書」で真っ先に取り上げた山ラーメン。私が山ラーを作り始めたのはこの漫画がきっかけと言っても過言ではない。
最初は日帰り登山ばかりだったので、おにぎりや唐揚げを作って持って登っていっていたのだが(それも最高においしかった)、ガスバーナーを使ってお湯を沸かし、カップ麺を食べている人を見かけて憧れた。最初はバーナーを扱うのもこわごわだったが、今ではすっかり慣れた。メスティンでごはんを炊くやり方もこの漫画を参考にしている。そういうわけで、私にとっての山ごはんのバイブルと言ってもよいほど、もう何度も読み返している漫画だ。
ほぼ1話完結で、さくっと読めるのもよい。コンビニの鮭おにぎりにネギみそとお湯を足して鮭雑炊にしていたり、ルーでお手軽なホワイトシチューパスタを作ったりと、自分でも真似できそうなものから、ローストビーフやジャンバラヤといったちょっと気合がいりそうなものまで、バラエティに富んだごはんが登場する。かといってごはんのレシピばかりではなくて、鮎美ちゃんが勤めている会社の同僚や家族との付き合いだったり、山で知り合った人との旅の話だったり、人物描写もなかなかおもしろい。時には寝坊して起きたら夕方だった話や、山に登らないという選択をしていたりと、主人公が実に人間臭く、完全に山にストイックではないところがよい。ああ、あるある~とうなずくシーンが多々ある。
最初読み始めたときはそこまで山に登っていないときだったので、後から再読してみると、ここ歩いた!とか、この山頂の景色知ってる!!とか、この山小屋の名物、食べた!とか、自分が歩いた山が登場していることに気づくととてもうれしくなる。先日訪れた富山の名峰・立山も、鮎美ちゃんとお母さんが歩いたコースをそのまま参考にした。鮎美ちゃんが登る山、作るごはんが、私の山人生の目標になるのかもしれない。
今、私が「写真生活手帖」で連載させてもらっている「室長の外ごはん白書」も、この漫画「山と食欲と私」のコラム版みたいなものを書きたくて、日々、ネタ探しに奮闘中だ。
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