暮らしのこと

20.08.04

さくらいろ【染織と日々のすきま】

柳川 千秋

柳川 千秋

柳川千秋・さくらいろ

剪定した桜の枝をいただいたので、帯揚げを染めました。

まず、枝を短めに切って、大きめの鍋で煮ます。
そうして、染液を抽出します。

桜の枝を煮ると、紅茶のような赤味のある染液ができます。
ふわっと優しくて、気持ちが落ち着く、とてもいい香りが部屋の中に漂います。

柳川千秋・さくらいろ

そこに糸や布を入れて染めていきます。
この段階ではまだ淡いベージュのような色です。

少しずつ温度を上げて染め、冷まします。
そのあと、金属イオンと結びつける「媒染」という作業をすると、色が出てきます。

花びらの淡いピンク色と、少し光沢があってグレー味を帯びている幹の色をイメージして染めました。

柳川千秋・さくらいろ

染めの作業をしていると、その植物にまつわることや、その周辺の特に気にもとめていなかったことを、なんとなく思い出します。

昔見た桜の木や、新しかった季節や、そのとき考えていたことなど、いつかの 忘れていたただの日常が、ぼんやり浮かんでは消えていきます。

毎年、桜が咲くのを楽しみにしています。
それなのに、今年の桜の詳細をもう思い出せません。

いつかまた桜を染めるとき、今年の桜のことを思い出すのだろうか——
さくらいろに染まった布を眺めながら、そんなことを考えました。

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この記事を書いた人

染織家

柳川 千秋 Yanagawa Chiaki

1988年神奈川県生まれ。元理学療法士。2016年より染織を学び始める。 糸を染め、機織りをして、着物や帯、小物などを制作している。

WEBサイト:https://yanagawa-chiaki.studio.site

instagram:@yanagawa_chiaki