まちは呼吸している
前回に続いて、オープンハウスギャラリーでの企画展示をご紹介しながら、空間と人との関係性についてお話ししてみようと思います。
まず1つ目は、2013年に開催した「まちは呼吸している」これは当時、筑波大学で洋画を専攻していた学生2人が企画してくれた展示で、会場は2人の行きつけの美容室と、住まいでもあるギャラリーというちょっと変わった設定でした。髪を切る人が訪れる空間と夫婦が暮らしている空間に、飾られた絵がきっかけになって、いつもとは違う人たちがやって来て、そこでしばし時間を共有することで自然と新たな関係が生まれます。また大学生でもある2人は4年経てば卒業してまちを離れ、春になれば新たな若者たちが足取り軽やかにやって来ます。行ったり来たり、出たり入ったり…回遊する人の動きはまるで呼吸のようだと、まさに体感させてくれた企画展示でした。
小さなまち
この展示期間中に、思い浮かべた光景がありました。
私の実家は酒屋を営んでいるのですが、まだ小さかった頃は店の軒先が遊び場で、そこでは馴染みのお客さんがよく仕事帰りにワンカップの酒を美味しそうに飲んでいたり、そこに通りかかったご近所さんが買い物かごを下げたまま加わって、長話が続いたりしていたものです。もう40年以上も前のことになりますが、「小さなまち」とも言えるそんな賑やかな光景が、当時は近所の八百屋さんや魚屋さん、神社の境内…其処彼処で見られました。
時代は変わって大型ショッピングセンターばかりになってしまいましたが、行き合った人と人が自然と言葉を交わしはじめる、風が抜けるように居心地の良い時間を共有できる場所というのは、今もしっかりとまちの中にあって、誰もが少し目を凝らして歩いてみれば案外すぐ傍で見つかるものだと思います。
S.D.L Photo Exhibition
次にご紹介するのは「S.D.L Photo Exhibition」です。公募によるこの写真展は、同じつくば市にあるレンタルギャラリー galleryY さんと共同で企画したもので、2015年から2019年まで5回開催しました。
この写真展の一番の特徴は、ホワイトキューブ(※)と居住空間というまるで趣きの異なる2つのギャラリーで展示をするということ。そこには、同じ作家であっても展示する空間が変わることで、作品の選び方や見え方が変わってくるという体験を、出展者と来訪者にも共有してもらいたいという意図がありました。2つの会場を設定するというのは「まちは呼吸している」をヒントにしています。(※ホワイトキューブ:近代以降の画廊や美術館に見られる、白い天井に白い壁の展示空間のこと。)
「S」は Select=選ぶ 「D」は Display=飾る/展示する 「L」は Live=暮らす
この 「S.D.L Photo Exhibition」 5年にわたって定期開催をしたこともあり、主催する私たちが予想していた以上に、つくばというエリアを超えて出展者・来訪者が集まり、新たな交流も数多く生まれました。中には後輩の展示を見に来たという女性が写真の魅力を知って翌年自ら出展者として参加、さらにその1年後には個展まで開催してしまったという嬉しいエピソードもあります。でも、毎年新たな作品に囲まれて新鮮な気持ちで過ごしてきた私たち夫婦が、実は一番贅沢な体験をさせてもらっていたのかもしれません。
空間をアップデートする
「一夜限りの写真展」「まちは呼吸している」「S.D.L Photo Exhibition」ご紹介した3つの企画展を含め、写真や油絵、書など、様々な作品が、私たちの住まいでもあるこのマンションの2部屋にやって来ました。そして、その度に飾る場所、家具の配置、合わせるモノの選択など試行錯誤を繰り返しました。その時間は毎回とてもワクワクするもので、これまでにない配置を思いついたり、長い間押入れで眠っていたモノが再び役に立ったり、という思わぬ発見をすることもよくありました。
7年半にわたるオープンハウスギャラリーによって実感したことは、ある空間に存在するモノと滞在する人、それぞれの間ではいつでも相互に作用し合う関係性が生じているということです。何となく気分が乗らなかったり、どうも上手くいかないなと感じた時に片付けや掃除をしてみたり、花を飾ってみる…そういう経験は誰にでも思い当たるはずです。自分が今どんな状態なのかをその時々でしっかりキャッチして、自分なりの効果的な方法で上手に空間をアップデートしていくこと。これが空間との幸せな関係を保つ何よりの秘訣のような気がします。
・ 空間と人の幸せな関係 vo.1(2021.04.30)