食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋…など「〇〇の秋」と言われるものは色々とありますよね。かくいうこの特集「おこもり時間に読みたいおすすめの本」も“読書の秋”のヒントになればと考えて企画したものだったりします。
そして、忘れてはならない秋がもうひとつ。そう、芸術の秋!小さなギャラリーでの個展から大規模な展覧会まで、秋は数多くのアートイベントが開催される時期でもあります。
でも、芸術って少し敷居が高い気がしてしまうことってありませんか?実は私自身「アート」という言葉をどこかよそよそしい感覚で受け止めていた時期もありました。よくわからなくて、何となくハードルが高くて・・・。美術館で開催されている大規模な展覧会で名作と呼ばれる作品を見ても、正直「へー、こういう感じなのね」くらいの感想で、「有名な作品を見られて良かったなぁ」という謎の満足感だけ持って帰っていたことも。
そんな私も、自分が写真を撮るようになり、表現の世界の端っこに立つようになってから、少しずつ自分なりの作品鑑賞の楽しみ方を見つけられるようになったように思います。
ギャラリーの仕事をしていると、時々、「作品をどう鑑賞したらいいのかわからない」とおっしゃる方にお会いします。写真だけに限らず、アートというものに対してどう向き合ったらいいのかよくわからない。その“わからなさ”の為に、せっかくの作品を情報としてだけ見てしまっている方も、意外と多いのかもしれません。以前の私がそうだったように。
つい最近、そんな方に、ぜひおすすめした1冊に出会いました。それが、末永幸歩さんの『13歳からのアート思考』です。
末永幸歩『13歳からのアート思考』
美術教師として教壇にも立つ著者は、多くの人がいつしか「美術」に苦手意識を持つにいたるその分岐点が13歳にあると考えています。つまり、中学生が学ぶ教科としての「美術」が、絵を描いたりするための「技術」と過去の芸術作品についての「知識」に重点が置かれているゆえに、かえって個人の創造性を失わせる結果になっている、と。
末永さんは、本来の「美術」という授業の役割は、作品の作り方を学ぶのではなく、その根本にあるアーティストが作品を生み出す過程の思考プロセス(アート的なものの考え方=アート思考)を身につけることにあるとおっしゃっています。
アーティストがやっているのは「自分の視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだし、それによって「新たな問い」を生み出すこと。つまり「自分のものの見方」を持つということ。著者の末永さんは、そのアート思考を身につけることが、複雑で変化の激しい現代世界を生きていくすべての人に重要だと考えています。
この本は、末永さんが実際に中学・高校生向けに行なっている美術(アート思考)の授業を、体験するような流れで構成されています。例えばどんな授業が体験できるのか、章(この本では「クラス」と表現されています)の目次をご紹介します。
・「あなただけのかえる」の見つけ方
・アート思考ってなんだろう
・「すばらしい作品」ってどんなもの?
・「リアルさ」ってなんだ?
・アート作品の「見方」とは?
・アートの常識ってどんなもの?
・私たちの目には「なに」が見えている?
・アートってなんだ?
・「愛すること」がある人のアート思考
どうですか?読んでみたくなりませんか?私がたまたま立ち寄った書店で平積みになっていたこの本を思わず買ってしまったのも、本の帯に印刷されていたこの章立てを見て興味を引かれたからなのです。
この本では、アートを自分の眼差しで鑑賞することの自由さが肯定されています。そして、そこから自分なりの答え(=考え・視点)を見出していく面白さが体験できます。
アートが身近に感じられない人はもちろん、正解のない問いについて考えることが苦手な人にも、ぜひ読んでみていただきたい一冊です。
ちなみに、美味しい秋のスイーツ(モンブランとか!)とコーヒーを用意して、この本を読み進めれば、食欲の秋・読書の秋・芸術の秋を一気に楽しめますよ。いかがでしょう?